うつ病・うつ状態で、SSRIやSNRI、NaSSAなどのお薬(抗うつ薬)で
モノアミン(セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン)を強化する治療が一般的に行われています。
通常それらの単剤抗うつ薬での有効率は50~70%と言われています。
残念ながら 30%前後の患者さんには一般的な1種類の抗うつ薬だけでは治らない方も存在します。
2剤の抗うつ薬を十分量、必要期間使用しても効果が得られないうつ病を
治療抵抗性うつ病と呼ばれています(Treatment-resistant depression : TRD)
抗うつ薬での治療の大前提は睡眠覚醒リズムを正すこと、
適度な運動(1回30分前後の有酸素運動、週3回、3ヶ月以上持続)、
ストレスマネージメント、認知のゆがみの修整など同時進行で行うことが必要と考えていますが、
やはり思ったように改善しないときもあります。
そのようなとき 治療の分かれ道として
1:抗うつ薬の切り替え
2:抗うつ薬2剤併用療法
3:増強療法 の3つの選択肢があります。
切り替え療法 | 併用療法 | 増強療法 (オーグメンテイション) |
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対象 |
現在の抗うつ薬で変化(反応)が乏しく、かつ副作用が強く服用継続が難しい。
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現在の抗うつ薬で変化(反応)が乏しい。
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現在の抗うつ薬で変化(反応)が乏しい。
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メリット |
お薬の種類が少なくてすむ、薬剤の負担が軽い。
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現在の効果に上乗せで効果を得られる、薬剤同士の相乗効果が期待される。副作用へのカウンター作用(相殺) |
現在の効果に上乗せで効果を得られる、併用療法より効果発現が早い、特定の症状をターゲットに出来る。 |
デメリット(リスク) |
切り替え期間薬剤の効果が弱まる期間がある、抗うつ薬減量時期に退薬症状のリスクがある。
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相互作用による予想外の副作用、薬剤の負担が大きくなる。
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抗精神病薬独自の副作用、薬剤の負担が大きくなる。
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治療切り替え療法の参考文献
CANMATガイドライン2023が2024年5月4日にオンラインで公開されました。
Question 6のQ.6.dのところに、抗うつ薬の中止・切り替え方法について記載されています。
Switching and stopping antidepressants
オーストラリアの文献です。モーズレイ処方ガイドラインなどを参考に、各種抗うつ薬の切り替え方法を纏めてあります。
Switching to Vortioxetine in Patients with Poorly Tolerated Antidepressant-Related Sexual Dysfunction in Clinical Practice: A 3-Month Prospective Real-Life Study
スペインの文献です。実臨床下で、抗うつ薬服薬中に性機能障害が出現した患者さんをボルチオキセチンに切り替えて3か月後の結果を纏めています。
うつ病やうつ状態が単剤で治らない病態の時、治療の分かれ道が来ます、切り替えで症状が改善するケースもありますが、患者さんの病態によりどれが最善か悩ましい問題です。
一般臨床では切り替えもありますが併用療法や増強療法を試みるケースが多いと思います
日本うつ病学会ガイドラインなどでは、非定型抗精神病薬による増強療法には慎重(長期安全性が不明のため)であるとの見解。
またCANMATも増強療法(非定型抗精神病薬以外も含む)か、切り替えは臨床的要因に基づいて
個別に行うべきとの見解。
併用療法として有名なのは、NaSSA(ミルタザピン)とSNRI(ベンラファキシンなど)、
SSRI(エスシタロプラム・セルトラリン)の併用でカリフォルニアロケット療法と言われるものです。
多くの論文でエビデンスが認められています。
しかしNaSSA(ミルタザピン:リフレックス、レメロン)は眠気・傾眠が他剤より強く、
使用出来る方は限られます。
古くには三環系抗うつ薬と四環系抗うつ薬のミアンセリン(テトラミド)の併用療法がありましたが、
現在、三環系抗うつ薬は効果としてはいまだ健在ですが、
副作用の点で使用されることは殆ど無くなっているお薬なのでこの出番はあまりないと思います。
また、増強療法(オーグメンテイション)として、アリピプラゾールARP(エビリファイ)、
クエチアピンQTP(セロクエル)、炭酸リチウム(リーマス)は以前から有効性が報告されています。
しかし2023年12月から増強療法にブレクスピプラゾールBRE(レキサルティ)が加わりました。
ブレクスピプラゾール(レキサルティ)は“非鎮静系”抗精神病薬のドパミンD2受容体部分作動薬です。
ドパミンを刺激するマイルドな作用とセロトニンとノルアドレナリンに対しても強く作用します。
元々統合失調症の治療薬として使用されてきた薬です。
統合失調症では成人では1日1回1mgから内服を開始した後、4日以上の間隔をあけて増量し、
1日1回2mgを内服します。
うつ病・うつ状態では、成人では1日1回1mgを内服します。
なお、忍容性に問題なく、十分に効果が認められ場合に限り、
1日2mgに増量することができるとなっています。
毎日内服すると、血液中の濃度は約4~5時間で最高濃度に達し、
1mg内服では約92時間後に、4mg内服では約71時間後に血液中の濃度は半分に下がるお薬です。
食事による影響はないと言われています。
副作用として・・・
アカシジア(5.1%)
頭痛(4.5%)
不眠(4.5%)
体重増加(3.1%)
振戦(2.8%)
傾眠(2.0%)
などがありますが、今後、併用療法に変わる治療薬として期待されています。
うつ病・うつ状態に対して 今後も更に有効な手段が増えることを願っております。
参考
1.1 つまたは複数の治療ステップを必要とするうつ病外来患者の急性および長期転帰: STAR*D レポート
2.大うつ病性障害の治療におけるアリピプラゾール増強の使用の最適化: 臨床試験から臨床現場へ
3.うつ病患者に対する非定型抗精神病薬の使用における臨床上の問題
4.大うつ病性障害患者における補助療法としての非定型抗精神病薬が精神科医療費と利用に及ぼす影響
5.アイさくらクリニック院長ブログよりうつ病治療の増強療法また統合失調症の薬物療法での副作用、アカシジア
【もくじ】
・うつ病とは
・うつ病の主な症状
・うつ病のタイプ別分類
・うつ病の原因
・うつ病になりやすい性格
・うつ病の治療
・うつ病・うつ状態の治療 治療抵抗性うつ病(Treatment-resistant depression : TRD)に対して
・心が不安定になり易い時期・またそのサインとは
・ストレスと労災認定について
・うつ病治療のゴール
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