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メジャーメント・ベイスド・ケア(MBC)に基づいた治療 Measurement-Based Care

エビデンス・ベイスド・ケア(Evidence・Based・Care)=科学的根拠に基づくケアとは
多くの先人の医療者が、基礎研究や臨床研究の莫大な積み重ねを元に、
科学的根拠にした治療のことです。 

それを元に、当院では
メジャーメント・ベイスド・ケア(Measurement・Based・Care) MBC
を勧めています。

1:メジャーメント・ベイスド・ケア
   (M
easurement・Based・Care) MBCとは
・・・

こころの症状もスコアリング化することで、治療のビフォーアフターを記録に残し、
本人へ振り返り、治療の効果の指針などに利用することです。 
いわゆる こころの症状の見える化 です。
『測定に元づく治療』と訳されることが多い医療アプローチです。

MBCを使用して治療を進めた方が、
何もせず進めた方より有効な結果が出たとの論文もあります。

 

また、治療のゴールの設定も漫然と治療するのでなく、
ある一定期間安定期が持続すれば服薬減量から服薬終了と目標を立てるのに役立ちます。 

参考になるサイトをご紹介いたします。

The Jurnal of Clinical Psychiatory  から うつ病性障害に対する測定に基づくケアの有効性: ランダム化対照試験の系統的レビューとメタアナリシス 公開日: 2021 年 9 月 28 日
うつ病性障害の人の治療でMBCと比較群での奏効率に有意差は見られなかった。
しかしMBCは寛解率が有意に高く、エンドポイントの重症度が低いと関連していた。
服薬アドヒアランスが向上した。とMBCの有用性に言及しています。

American Journal of Psychiatryから 大うつ病に対する測定ベースのケアと標準ケア: 盲検評価者によるランダム化対照試験 公開日:2015年8月28日
大うつ病の治療においてMBCを用いた治療とそうでない治療で寛解および寛解までの時間を比較した、MBCを用いた方が寛解していた、また寛解までの時間も短かった、またHAM-D スコアもMBCを用いた群が有意に減少した。とMBCの有用性に言及しています。

Innov Clin Neurosciから Aboraya A et al. 2018, 15, 13-26 『精神医学における測定に基づ
くケア ― 過去、現在、そして未来』オンライン公開日:2018年11月~12月

MBC治療の利点、障壁、実際問題、MBCの最近の動向など詳細に言及しています。

Am J Psychiatry.から 反応・寛解までの期間(MBC vs 通常治療)
Measurement-Based Care Versus Standard Care for Major Depression: A Randomized Controlled Trial With Blind Raters Guo T et al. ; Am J Psychiatry.2015, 172, 1004-1013

大うつ病治療でMBCを使用した場合と標準治療の場合の比較、中等度から重度のうつ病患者さんに対してMBCが標準治療より治療の反応と寛解を達成するのが早かった、MBC使用の群が抗うつ薬投与量が多かったが副作用の負担が少なく患者さんに受け入れられていた。 

A Tipping Point for Measurement-Based Care 『測定に基づくケアの転換点』
Fortney JC et al.; Psychiatr Serv.2017, 68, 179-188

MBCの実現可能性の具体的コメントなどが役に立ちました(MBCを利点、効果のないケース、測定頻度、MBCを医療者が行わない場合の一般的理由、MBCの二次的利用など)

Canadian Network for Mood and Anxiety Treatments (CANMAT) 2016 Clinical Guidelines for the Management of Adults with Major Depressive Disorder  オンライン公開日:2016年8月2日
カナダ気分・不安障害治療ネットワーク(CANMAT)の2016年成人大うつ病性障害管理臨床ガイドラインでMBCに関するコメントがありました。スクリーニング・診断および結果のモニタリングに有用なツール検証済みの成果尺度の例が紹介されています(1.12.)。

Assessment of current clinical practices for major depression in Japan using a web-based questionnaire Hori H. and Yamato. K,; Neuropsychiatr Dis Treat. 2019, 15, 2821-2832 オンライン公開日:2019年10月1日
産業医科大学の堀輝先生の論文 ウェブベースの質問票を用いた日本における大うつ病の現在の臨床実践の評価で 将来的には、認知機能障害の初期スクリーニングにデジタル ツール (例: THINC-it ® ) を導入することが有用となる可能性があると述べています。


日本の文献では
1:精神科領域におけるMeasurement・Based・Careの重要性と実践 内田裕之 臨床精神医学 52(10) 1143-1146 2023 
2:気分障害患者の抑うつ症状・躁症状・副作用に関する評価尺度の有用性とその活用 渡邊雅子 松本泰幸 坪井貴嗣 臨床精神医学 52(10) 1169-1176 2023 
3:気分障害における認知機能評価の有用性と臨床応用 菅原裕子 堀輝 臨床精神医学 52(10) 1177-1183 2023
4:気分障害の評価尺度ーQOL・パーソナルリカバリーー 加藤正樹 越川陽介 臨床精神医学 52(10) 1185-1194 2023

以上 参考になる文献です(著作権のため詳細はアップできず、申し訳ありません) 

 

 

2:メジャーメント・ベイスド・ケア(MBC)の実際

自記式心理テストについて

 目的
1.疾患のスクリーニング 
2.重症度評価
3.症状プロフィールの評価(心理検査の中身を見ることで)
4.診断の補助 (自記式心理テストはあくまで診断の補助)
 利点
1.面接と比較して抵抗感が少ない
2.自分のペースで答えることが出来る(面接だと遠慮する人もいる、返答に時間がかかる人にとっては答えやすい)
3.面接で得られる情報の補足が可能(希死念慮、性欲減退など聞きにくい質問項目)
4.自分が治療に参画している印象を本人に与えられる
5.患者さんの回復過程を知る物差しとしての機能(回復をフィードバック)また、残遺症状をチェックできる
6.いつ聞いてても『調子が悪い』と自分の変化に気が付きにくい人に長期的なMBCで、ゆっくりではあるが改善の変化がある時など 治療上の保証を与えることが出来る。長期的な変化をフィードバック出来る。
7
.反応・部分反応・寛解・回復また悪化などが分かる(治療後の変化に気がついてない人へ、変化していること(良くなっていること)などフィードバックする材料になる。(安心材料を提案提示出来る) またMBCで悪化している時、悪化のきっかけなど話し合う材料を提示するチャンスとなる。
8.アドヒアランスが改善 薬剤の調整、適切な用量を設定し易くなる(長期的なグラフなど利用すると経過がはっきりする→ギザギザタイプの人・安定推移の人・ゆっくり改善・自己中断で再燃の人のグラフなど)
9.MBCを使用した治療は治療の反応率と寛解率が高く、治療を成功し易くする
10.共有意思決定支援 (Shared decision making:SDM) に役に立つ(職場復帰や治療集結時などグラフを一緒に見ながら考えて行く)
11.産業医・家族・上司などへ情報提供する時に経時的経過が分かり易く説明出来る。

12.傷病手当診断書・主治医意見書・傷病証明などの発行の時 病状の重さを提示出来る
 問題点
1.症状を否認している人、協力的でない人
2.協力的だが自己観察が出来てない人、セルフモニタリング能が低い人 
3.過大評価、過小評価 (男女差)
4.意図的である人(診断書目的 詐病)
5.理解力乏しい人 精神運動抑制が強い時 外国人など 
6.心理検査の費用問題
7.検査を行うスタッフ・場所問題

当院で基本にしている自記式心理テストは、
SDS(抑うつの尺度)STAI(不安の尺度)です。

 

 
 

SDS(抑うつの尺度)について

日本において、1990年から2003年までの抑うつ研究で使用された自記式尺度の使用頻度は、
最も多いものがSDS(Self-rating Depression Scale)、次にBDI(Beck Depression Inventory)、CESD(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)と続くと
報告されている。
その他に利用率の低い尺度が50種類以上あることも示されている。 
奥村泰之, 亀山晶子, 勝谷紀子, 坂本真士:1990年から2006年の日本における抑うつ研究の方法に関する検討. パーソナリティ研究 16(2); 238-246, 2008.より 

またQIDS-J(クイズ)16問はSTAR*D研究(2001年7月~2006年9月)で使用されている
グローバルなうつの指標です。Rush AJ et al Biol Psychiatry,2001から536名の成人うつ病患者さんに行った結果 QIDS -SR(自記式)とHAMD-17(客観的)は点数がほぼ相関するという結論を出しています。自記式心理テストでありながら客観的指標に近い結果を出しています。
今後当院でSDSからQIDS-J(クイズ)へうつの指標を変更することも検討しています) しかし当院では現在SDSを主に使用しているのでSDSのことを説明いたします。

SDSはDuke大学のZungらによって開発され日本語訳をされたものを一部改良して使用
(質問項目がはい、時々、かなり、いつもの4択だが20項目 順番答えると高得点低得点が問題ごと一定でなく答えにくい、また質問内容が分かりにくいため一部改良して使用) 

SDSは治療による改善に対する鋭敏さは劣ると指摘する意見もあるが、
私は治療反応は鋭敏と感じている。
しかし身体症状が20項目の中で7項目(4-10番)もあり他の抑うつ検査に比べやや多い。
老人など身体症状が元々多い方は高得点となりがちという傾向があります。

●主に質問番号の抑うつ状態像因子として
1:憂うつ・抑うつ・悲哀 2:日内変動 3:啼泣 4:睡眠 5:食欲 6:性欲 7:体重減少 8:便秘 9:心悸亢進 10:疲労 11:混乱 12:精神運動性減退 13:精神運動性興奮 14:希望のなさ 15:焦燥 16:不決断 17:自己過小評価 18:空虚 19:自殺念慮 20:不満足 
総点数の推移だけでなくこの項目を追っていくのも活用幅が広がる 

 

STAI(不安の尺度)について

STAI(State-Trait Anxiety Inventory) は、状態-特性不安理論(state-trait anxiety theory)に基づいて作成されてた不安の検査。
現在の不安の程度と不安になりやすい性格傾向を分けて測定し、全体的な不安状態を把握します。 
特性不安:不安になりやすい性格傾向 (脳の不安体質)
状態不安:今感じている不安(目の前の不安)
不安が先行するうつ病・うつ状態はより治療困難例、遷延化する傾向があり。
特性不安と状態不安をチェックしながら治療することが合理的
 

SDSとSTAIの経過 具体例

不安の評価と抑うつの評価を治療と並行して、その変化を見て薬物療法や精神療法の反応、
部分反応、反応なしなど評価していきます。
 

 

色々な心理テスト 参考資料 当院が行っている検査は→緑色


医師による評価尺度★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

うつ病評価尺度
ハミルトンうつ病評価尺度 HAM-D
Montgomery-Asberg Depression Rating Scale(MADRS)
Bech-Rafaelesen Melancholia Scale(BeRaMeS)

自記式心理テスト★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

うつ病の自記式評価尺度
SDS(抑うつの尺度)Beck Depression Inventory(BDI) Beck Depression Inventory-Second Ed.(BDI-Ⅱ)、CES-Dエジンバラ産後うつ病自己評価票QIDS-J(クイズ)

双極性障害の自記式評価尺度
Manic尺度(MDI 躁状態)

身体疾患に伴ううつ状態の評価尺度
月経前症候群チェック(PMS)、更年期障害指数(SMI)、男性更年期障害指数(AMS)
日本脳卒中学会・脳卒中うつ病スケール
Cornell Scale for Depression in Dementia(CSDD) 認知症患者さんのうつ状態の定量検査

不安全般の評価尺度
STAI(不安の尺度)、強迫性障害評価尺度(OCD)、ハミルトン-A(HAM-A,HAS)
Anxiety Status Inventory (ASI) of Zung 

Zung自己評価不安尺度(Self-rating Anxiety Scale:SAS) 
Anxety Sensitivity Index(ASI) 
Sheehanシーハン不安尺度(Sheehan Patient Rated Anxiety Scale) 

個々不安障害の評価尺度
パニック障害パニック障害自記式心理テスト、パニック障害受傷度評価尺度(PDSS)・パニック障害広場恐怖症評価尺度(Panic and Agorafhobia Scale)・パニック日記(Panic Diary) 
社交不安障害リーボビッツ社交不安障害尺度(LSAS)・Fear of Negative Evaluation Scale(FNE)
Social Avoidance and Distress Scale(SADS)
強迫性障害→Yale-Brown大学強迫性障害評価尺度(Y-BOCS)、

全般性不安障害→DSMに基づくGAD症状重症度尺度(DGSS)
その他:恐怖症状質問票(Fear Questionnaire) 

その他の評価尺度
発達障害AQJ(ASD)、ASRS-V1.1(ADHD)、QAD(ADHD)
会復帰の評価PDQ-5(認知機能・頭の回転)、SASS(社会適応・復職尺度)
アルコール依存症評価新久里浜式(KAST) 男性版・女性版
睡眠時無呼吸症候群症評価エプワース(睡眠自己チェック)
心身全般の自記式評価PHQ-9(心と体の質問票)、GHQ(心身全般スクリーニング)

性格分析評価尺度
TEGⅡ、MMPI

 

追加として

Numerical Rating Scale(NRS)(ニューメリカル・レイティング・スケール)について

元々NRS(Numerical Rating Scale)は痛みが発生する疾患の治療の時に使用される指標
「患者さんが感じている痛み」を数字で評価するものです。患者さんの自己申告によるもので
精神科治療でも心の健康点数として使えると思い、当院はそのNRSを心の健康度の指標として使用しています。
質問の仕方は 『心の健康を100点満点でつけると、今は何点ですか? 通常の自分が100点として答えてください 今感じている直感で答えてください』『治療を始めて数週間経ちましたが今は何点?』『最近の良い点数と悪い点数は?』など 自記式心理テストと並行して 自覚評価のNRSも使用して両面から心の見える化治療を進めています。  


 



アイさくらクリニックは、これまでも、またこれからも
メジャーメント・ベイスド・ケア(Measurement・Based・Care)
進めていきたいと思っております。

 

 

 

 

 

〒 810-0001

福岡市中央区天神1丁目2-12 メットライフ天神ビル4階 (2016年10月1日から天神122ビル→メットライフ天神ビルに変更 2017年10月1日で併記(移行)期間終了)

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