フラッシュバック、過剰な警戒心、悪夢、感情の麻痺、避けられないものを無視した
行動などの症状を考えます。
人は何らかのトラウマ体験を60.7%の人は持っていると言われています。
また不安障害の中のパニック障害障害の生涯有病率は1.0%
PTSDの生涯有病率は1.3%(WMH調査より)
近年 認知度が高くなったパニック障害よりPTSDの生涯有病率は高いのです。
(時点有病率(過去12ヶ月)ではパニック障害0.5%・PTSD0.7%)
それなのにきちんと治療を受けている患者さんは圧倒的に少ないのが現状です。
以前は社会不安障害がきちんと治療を受けられてない状況から
『無視されてきた不安障害』と言われていましたが、
現在はPTSDが『無視されてきた障害』とも言えると思います。
(PTSDの診断基準のグループは不安障害とは別の心的外傷
およびストレス因関連障害(DSM-5)に位置づけられています)
パニック障害以上の生涯有病率がありながら、
実際の治療を受けている方はパニック障害より圧倒的に少ないのが現状です。
PTSDの症状は脳内物質、アドレナリン系の障害と言われています。
f-MRIやPET研究において、PTSD患者さんは扁桃体の活動が亢進し、
情動活動を調節する脳領域、前頭前野の活動が低下していることが明らかになっています。
PTSDの症状は大きく以下の4つのカテゴリーに分類されます。(DSM-5-TRより)
再体験(フラッシュバック) : トラウマ体験を繰り返し思い出すことです。
具体的には、悪夢や突然の強いフラッシュバックがあり、
その出来事が再び覚醒のような感覚を伴うことがあります。
強い恐怖や恐怖を感じることがあります。
回避と麻痺:トラウマに関連する状況や場所、人々、または会話を偏見傾向が見られます。
さらに、感情の麻痺や他者との断絶感、活動への興味の喪失などが見られることもあります。
過覚醒症状: 常に緊張した状態でいることが多く、過敏に反応したり、睡眠障害、
不安感や怒りの爆発が見られることがあります。
また、集中力の欠如や驚きのしやすさもこのカテゴリーに含まれますます。
認知と気分の変化:トラウマ後に起こる否定的な思考や感情の変化です。
自分自身や他人に対して否定的な思い込み、罪悪感、恥ずかしさ、恐怖、
そして社会的孤独感が含まれます。な感情を感じることもあります。
PTSDは、以下のような命に不快感や深刻なトラウマ体験によって起こることがあります。
個人がトラウマとなる出来事を直接体験した場合。
重大な交通事故:大きな自動車事故で自身が重傷を負う、または車が転覆するような
事故に巻き込まれる。
自然災害の被害:地震、津波、台風、ハリケーン、火山噴火、山火事などの自然災害で
命の危険を感じる経験。
暴力的な犯罪の被害者:強盗に遭い暴行を受ける、ナイフで刺される、または銃で撃たれる。
性的暴行:強姦や性的虐待、襲撃を受ける。
火災事故:自宅や職場で火災が発生し、命の危険を感じながら逃げる。
溺れかける体験:川や海で溺れそうになり、自力で岸にたどり着くか、救助される。
飛行機事故:飛行機事故で機内にいて、墜落や緊急着陸を経験する。
爆発事故:工場や建設現場などで爆発事故に巻き込まれる。
致命的な医療事故:手術中や医療手続きで生命を脅かされる事故に遭う。
戦闘体験:軍事作戦や戦争中に敵の攻撃を受ける、爆発に巻き込まれる、銃撃を受ける。
テロ攻撃:自爆テロや銃乱射事件の現場に居合わせて逃げ惑う。
他者がトラウマとなる出来事に遭遇するのを直接目撃する場合。
交通事故の目撃:大規模な交通事故を目撃し、重傷者や死亡者を目の当たりにする。
暴力事件の目撃:路上での銃撃戦、暴行、または刺傷事件を目撃する。
自殺の目撃:公共の場所や家庭で誰かが自殺を試みるか実行する場面を目撃する。
建物の崩壊を目撃:建物が崩壊し、人々が下敷きになるのを目撃する。
自然災害の目撃:津波が押し寄せる場面を目撃し、人々が流されるのを見る。
飛行機事故の目撃:飛行機の墜落や緊急着陸の場面を目撃する。
家族や親しい友人がトラウマ体験をしたことを知る場合。
突然の死を知らされる:家族や親しい友人が交通事故や犯罪で突然死亡したことを聞かされる。
重傷の知らせ:近親者が重大な怪我を負った事故や事件を経験したことを知らされる。
虐待の告白:子供やパートナーが性的虐待や身体的虐待を受けたことを聞かされる。
戦場での死亡を知る:軍に従事している家族や友人が戦場で亡くなったとの知らせを受ける。
病院での医療事故を知らされる:親しい人が医療事故で命を失ったことを知る。
職務上、トラウマとなる出来事に繰り返しまたは極端にさらされる場合。
救急医療従事者:救急救命士やER看護師が、重傷者や致命的な事故の犠牲者に繰り返し対応する。
消防士:火災現場で繰り返し救助活動を行い、重傷者や死亡者と対面する。
警察官:児童虐待の捜査や犯罪現場の捜索を繰り返し行い、その惨状を何度も目撃する。
犯罪現場の検視官:繰り返し凄惨な犯罪現場での検視を行い、遺体や重大な負傷の状況に直面する。
軍事任務:戦闘や爆発現場に繰り返し派遣され、戦場の激しい状況に何度も遭遇する。
これらの具体例は、PTSDのA基準に該当するさまざまな状況を示しています。
PTSDの診断は、これらの経験が個人にどのような影響を与えているかを評価し、
トラウマ体験に対する反応を理解することに基づいています。
診断は主に精神医療に精通している医師により、ICD-11(国際疾病分類 第11版)もしくは、
DSM-5-TR精神障害の診断と統計マニュアル 第5版 テキスト改訂版)に準拠して行われます。
ICD-11とDSM-5-TRの診断基準は少し違います。
下記にそれぞれの特長と違いをまとめてみます。
DSM-5-TR
(精神障害の診断と統計マニュアル 第5版 テキスト改訂版)
◇症状の分類
ICD-11: 主に3つのカテゴリー(侵入、回避、過覚醒)で症状を分類。
DSM-5-TR: 4つのカテゴリー(侵入、回避、認知と気分の否定的変化、過覚醒)
で症状を分類。
◇認知と気分の変化
ICD-11: 「認知と気分の否定的変化」は独立したカテゴリーとして扱わない。
DSM-5-TR: 「認知と気分の否定的変化」を独立したカテゴリーとして評価し、
より詳細な基準が設定されている。
◇基準の複雑さ
ICD-11: 基準が比較的簡潔で直感的なため、診断がやや簡易。
DSM-5-TR: 基準が詳細で複雑なため、より幅広い症状を評価することができる。
◇焦点の違い
ICD-11: トラウマ体験後の主な症状に焦点を当て、簡潔な基準を提供。
DSM-5-TR: 広範で詳細な症状分類を行い、トラウマ体験が個人に及ぼす
広範な影響を評価する。
近年 複雑性PTSDという診断概念が出てきていますが、
長期間に渡るいじめ体験なども原因になるとも言われています。
DSM-5-TRにはいじめ体験もその程度によっては診断基準のA基準に含むとされています。
複雑性PTSD(Complex PTSD, C-PTSD)は、
持続的なトラウマ体験によって引き起こされる心理的な障害です。
通常のPTSDと比べて、複雑性PTSDはより広範で長期的なトラウマに
関連する症状が含まれます。
ICD-11では独立した診断カテゴリーとして認識されており、
特に長期にわたるトラウマ体験に関連する深刻な症状が特徴です。
1. 複雑性PTSDの主な原因
複雑性PTSDは、以下のような長期間にわたる反復的なトラウマが原因となることが多いです。
◇ 幼少期の虐待(身体的、性的、心理的)
◇ 学童期の長期間に渡る陰湿ないじめ(身体的、性的、心理的)
◇ 長期にわたる家庭内暴力
◇ 人身売買や監禁状態
◇ 戦争やテロリズム
◇ 捕虜や拷問の経験
これらの状況では、被害者がトラウマ体験から逃げることが難しく、
継続的に苦痛を感じ続けることが特徴です。
2. 複雑性PTSDの症状
複雑性PTSDは、通常のPTSD(侵入症状、回避症状、過覚醒症状)に加え、
次のような追加の症状を特徴とします。
◇通常のPTSD症状
侵入症状:トラウマのフラッシュバックや悪夢、強迫的なトラウマ体験の再現。
回避症状:トラウマに関連する状況や思考を避けようとする。
過覚醒症状:睡眠障害、イライラ、過敏な警戒心。
◇追加の症状
感情の調整が難しい:感情の不安定さや抑うつ、強い怒り、感情の麻痺など、
感情コントロールの問題。
否定的な自己概念:深い自己嫌悪感や無価値感、罪悪感、絶望感が特徴的。
対人関係の問題:他者との関係を築くことや維持することが難しい、他者への不信感、
過度な依存など。
持続するトラウマ反応:持続的な恐怖や絶望感が強く、日常生活に大きな支障を来すことが多い。
3. 複雑性PTSDと通常のPTSDの違い
◇トラウマのタイプ
複雑性PTSDは、長期間にわたる反復的なトラウマ体験に関連するのに対し、
通常のPTSDは単一の衝撃的な出来事によることが多い。
◇症状の範囲
複雑性PTSDは通常のPTSDに加えて、感情調整や自己概念、対人関係の問題など、
より広範囲に及ぶ影響が見られる。
◇診断の基準
ICD-11では、複雑性PTSDが独立した診断基準として明確に定義されていますが、
DSM-5では独立したカテゴリーとしては扱われていません。
国内外のガイドラインにて、PTSDに対する第一選択治療としては、
トラウマ焦点化心理療法、すなわち持続エクスポージャー(PE)療法、
眼球運動による脱感作と再処理法(EMIR)、認知行動療法(CBT)が推奨されています。
しかし残念ながらこれらのトラウマ焦点化心理療法を専門に行っている医療機関は
全国的にも少なく、保険診療でこれらの治療をどこの地域でも受けられないのが現状です。
(残念ですが当院もトラウマ焦点化心理療法は行っておりません)
薬物療法としては、
・セルトラリン(ジェイゾロフト)
・パロキセチン(パキシル)
・フルオキセチン(プロザック→日本では未承認)
・ベンラファキシン(イフェクサー) などが第二選択薬とされています。
(特にセルトラリン(ジェイゾロフト)・パロキセチン(パキシル)はPTSDそのものに
保険適応されています)
パニック障害より生涯有病率は高いPTSDですが、
今後の医療の発展を願って現時点で出来る日々の臨床を根気よく続けて行きたいと思っています。
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