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原発性腋窩多汗症と原発性手掌多汗症

原発性腋窩多汗症原発性手掌多汗症は、
どちらも多汗症(通常よりも多量の汗をかく状態)の一種ですが、
発汗の部位や特徴、影響などに違いがあります。
以下に、それぞれの疾患ををまとめてみます。 

1.原発性腋窩多汗症(げんぱつせいえきかたかんしょう)

特に脇の下(腋窩)で可能な発汗が起こる病態です。
この状態は身体が必要以上に汗をかく原因となるもので、
特定の環境や身体的要因とは無関係に発汗が起こります。

●原発性腋窩多汗症の特徴

主な発生部位 脇の下(腋窩)
頻度 多汗症は日本人の約10%
そのうち約60%が原発性腋窩多汗症。
優性遺伝して親子ともに現れることが多い。
また原発性腋窩多汗症の受診経験率は4.4%と低いのが現状です
発症年齢 通常、思春期や青年期に発症しますが、それ以降でも発症することがあります。
原因 完全には解明されていませんが、遺伝的な要因が関与していると考えられています。
発汗をコントロールする交感神経が過剰に活性化されることが一因とされています。
症状の持続時間 長時間持続することが多く、特に緊張やストレス、暑さなどの特定の刺激によって症状が悪化することがあります。
影響 生活の質(QOL)に大きな影響を与えることがあります。
例えば汗染みや体臭、衣服の選択の制限などにより、社会的な場面や仕事上での困難が生じることがあります。

●診断と治療法

診断
主に患者の症状の報告と臨床評価に基づきます。発汗の量や頻度、発症状況などを詳細に聞き取ります。
HDSSスコア(Hyperhidrosis Disease Serveity Scale)多汗症(過剰な発汗)の重症度を評価するための簡便な自己評価ツールにより、重症度判定を行います。※スコア3以上が重症
これは、多汗症患者の生活の質(QOL)に対する発汗の影響や治療の効果を評価するために用いられます。
治療法

1.外用薬
アルミニウム塩を含む制汗剤ソフピロニウム臭化物(エクロックゲル)グリコピロニウムトシル酸塩水和物(ラピフォート)などは、抗コリン作用を有する外用薬で、エクリン汗腺のムスカリン受容体へ結合することで発汗シグナル伝達を阻害します。

2.内服薬
抗コリン薬など、発汗を抑える作用のある薬が処方されることがあります

3.注射療法
ボツリヌス毒素(ボトックス)注射は、神経から汗腺への信号をブロックすることで発汗を抑えます。この効果は一時的であり、定期的な治療が必要です。

4.手術
交感神経切除術(ETS)は、過剰な発汗を引き起こす神経を切断まはた遮断することで症状を改善します。ただし手術にはリスクが伴い、代償性発汗(ほかの部位での発汗増加)などの副作用が発生することもあります。

 

2.原発性手掌多汗症(げんぱつせいしゅしょうたかんしょう)

手のひら(手掌)で過剰な発汗が起こる病態です。これは、特定の環境や身体的要因とは
無関係に手のひらから汗が大量に分泌される状態を指し、日常生活に支障をきたすことが
あります。手のひらからの過剰な発汗は、握手や物を持つなどの活動を困難にし、
心理的な負担も大きいです。

●原発性手掌多汗症の特徴

主な発生部位 手のひら(手掌)
発症年齢 一般的には思春期に発症し、その後も続くことがあります
原因 正確な原因は不明ですが、遺伝的要因があると考えられています。交感神経が過剰に活性化することによって汗腺が過剰に刺激され、結果的に手のひらから大量の汗が分泌されます。
症状の特性 緊張やストレス、温暖な気候などの特定の状況で症状が悪化することが多いです。症状は常に発生するわけではなく、特定の誘因がある場合に著しくなることがあります。
影響 握手や紙の取り扱い、電子機器の使用、スポーツ、楽器の演奏など、日常生活や職業上の活動に支障をきたすことがあります。
また、心理的・社会的な負担も大きく、自己評価や対人関係に悪影響を及ぼすことがあります。

●診断と治療法 

診断

主に患者の症状の報告と臨床評価に基づきます。発汗の量や頻度、症状が現れる状況などについて詳細な聞き取りを行います。一般的に、ほかの基礎疾患が原因でないことを確認するために、ほかの医療検査が行われることがあります
HDSSスコア(Hyperhidrosis Disease Severity Scale):多汗症(過剰な発汗)の重症度を評価するための簡便な自己評価ツールにより、重症度判定を行います。
※スコア3以上が重症

【手掌多汗症のグレード】
Ⅰ度:手のひらが汗で湿る程度
Ⅱ度:手のひらに汗の水玉ができるが、垂れるほどではないもの
Ⅲ度:手のひらから汗が垂れることがある

治療法

1.外用薬
アルミニウム塩を含む制汗剤を手のひらに使用することで、汗腺を一時的に塞ぎ、発汗を抑えることができます。また近年オキシブチン塩酸塩(アポハイドローション20%)も使用されています。
アポハイドローション:汗腺のムスカリン受容体に作用し、発汗を抑制

2.内服薬
抗コリン薬などの内服薬が使用されることがありますが、副作用(口渇、便秘など)が発生する可能性があります。

3.イオントフォレーシス
微弱な電流を手掌に通すことで発汗を抑える治療法です。比較的安全で効果的ですが、定期的な治療が必要です。

4.注射療法
ボツリヌス毒素(ボトックス)の注射が、汗腺の活動を抑制するために使用されることがあります。効果は一時的であり、数か月毎に再治療が必要です。

5.手術
手掌に過剰な発汗を引き起こす神経を切断または遮断する胸腔鏡下交感神経切除術(ETS)が行われることがあります。
手術は通常効果的ですが、代償性発汗などの副作用が発生することがあります。

 

おまけ▼▼
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